ひろしまアニメーションシーズン2022

JOURNAL ジャーナル

2022.05.11 イベントレポート 公式レポート

【イソナガアキコの公式レポート】プレイベント「作りたくなる日、考えたくなる日」

こんにちは。ひろしまアニメーションシーズン2022公式ライターのイソナガアキコです。
アニメーションについてさほど詳しくない私ですが、拠点とする広島の文芸やカルチャーを発信するものとして、この機会をいただけたことに深い感謝と心地よい緊張を感じています。
このレポートでは、アニメーションと少し距離のある自分だからこそ見える景色やアニメーションシーズンの魅力をお伝えできたらと思います。

それではさっそく4月16日(土)にJMSアステールプラザで開催されたプレイベントについて、公式ライターとして初となるレポートをお届けします!

広島を舞台に、2022年8月1日から1ヶ月にわたって繰り広げられる音楽とメディア芸術(アニメーション、映画、マンガ等)の新しいフェスティバル「第1回ひろしま国際平和文化祭」こと略称「ひろフェス」。「芸術」によって「平和の種をまき、次世代を育てる」をコンセプトに、「演じる側も見る側も作る側もみな主役」という、今までにない新しい形の市民参加型イベントが始まろうとしています。その「ひろフェス」の魅力をいち早く伝えようと、音楽とメディア芸術を体感できるプレイベント「作りたくなる、考えたくなる日」が4月16日(土)、JMSアステールプラザ中ホールで開催されました。

→リハーサルの様子はこちら

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第一部:作りたくなるお話 |
①講義編
・絵を描いてみたくなるお話 講師:山村浩二
・声を出してみたくなるお話 講師:新谷真弓
②実践編
・「ぴかぴかランタン」お披露目! 絵を描いて動かしてみよう。
  講師:宮﨑しずか/出演:信濃宙花&川又優菜(STU48)
・「ひろフェスPR映像」にアフレコをしてみよう!
  講師:新谷真弓/出演:信濃宙花&川又優菜(STU48)

第二部:考えたくなるお話 |
③パフォーマンス編
・名作アニメーション 『霧のなかのハリネズミ』の上映
・ひろしまミュージックセッション「宮沢賢治に捧ぐ演奏」/下野竜也プロデュース 
 演奏:小林良子&羽賀美歩/曲目「星めぐりの歌」「虹の彼方に」「さくら横ちょう」
・宮沢賢治の名作が世界へと広がる日英朗読ショー 『やまなし Mountain Stream』
 朗読:アーサー・ビナード×新谷真弓
④対談編
・詩人と絵本作家が名作童話を新解釈!「真説 『やまなし』 クラムボンってなんじゃろ 」
 出演:アーサー・ビナード×山村浩二
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● 開会宣言


4月16日(土)JMSアステールプラザ中ホールにて、第1回ひろしま国際平和文化祭開催記念プレイベント『作りたくなる、考えたくなる日』が開催されました。主催者を代表して、ひろしま国際平和文化祭実行委員会会長の山本一隆さんが開会を宣言。8月に開催される「ひろしま国際平和文化祭」について紹介しながら、「良質な音楽やメディア芸術の魅力に触れていただき、平和の尊さを実感してほしい」と挨拶しました。

● 第一部 作りたくなるお話 講義編

舞台上で実際に絵を描きながら講演をする山村浩二さん。

トップバッターは世界を舞台に活躍するアニメーション作家の山村浩二さん。ひろフェスの2匹のキャラクター「カープスター」の制作も手がけた山村さんは、どのような経緯を辿ってカープスターが誕生したのか、その変遷をイラストを描きながらわかりやすく説明。また2枚の紙を使ってアニメーションを表現するマジックロールという技法を披露すると、観客席から感嘆の声が上がりました。


「この世界に存在するどんな作品も人の手によって作られている。人が文化を作るし、平和も作るし、壊すこともある。ひろフェスではどの作品においても、作品を作った個人とその個性が尊重されていくことを伝えたい」とひろフェスに懸ける想いを語ったうえで、「このプレイベントを通して、8月開催のひろフェスで紹介するアニメーションや音楽の”起源”を感じ取ってもらいたい」と、講演を締めくくりました。


続いて、女優・声優として活躍する新谷真弓さんが登場。「声を出してみたくなるお話」というテーマで、声優として出演した「この世界の片隅に」で、主演を務めたのんさんに広島弁の方言指導をした際の秘話や、新谷さんが女優を志した経緯、また声優という仕事について語りました。

● 第一部「作りたくなるお話」実践編


「作りたくなるお話」実践編では、宮しずかさんが在籍する比治山大学短期大学部とサニクリーンアカデミーが共同で開発した「ぴかぴかランタン」を披露。「ぴかぴかランタン」はスライド映写機の原型ともいえる幻灯機を手作りしたもの。アニメーションとは切っても切れない「幻灯機」について説明しました。(実はこの後、第二部で登場する宮沢賢治の『やまなし』の作品の中にも幻灯機が出てきます!)


続いて、ステージにSTU48の二人が登場。実際に「ぴかぴかランタン」を使って、2コマアニメーション作りに挑戦します。


舞台のスライドに二人の姿や描いた絵が映し出されると、観客席の子どもから「宙花ちゃん!」「三日月の絵だ!」など声があがり、二人がまたその声に応えるなど、会場は和気あいあいとしたムードに包まれました。


最後は、新谷さんとSTU48の二人が、山村さんが制作・監修したひろフェスPR映像「ひろしま ハジマル」に登場する2匹のキャラクターのアフレコにチャレンジ。声優として活躍する新谷さんのお手本を参考に、STU48の二人もアフレコに挑戦。思うように表現できなかったり、タイミングが合わなかったりと苦戦する二人に、新谷さんは「もう少しゆっくり時間を使っても大丈夫」「歌を歌うように声を出してみて」とアドバイス。

何度もテイクを重ねる中、「楽に遊ぶ感じでいいよ」という新谷さんの声かけに、キャラクターになりきって演じた二人。4回目のテイクでやっと合格をもらうと、「アフレコは初めてだったけど楽しくできました」「いつかアドリブもできるくらい上手になりたいです」と声を弾ませました。

● 第二部「考えたくなるお話」パフォーマンス編


15分の休憩を挟んで始まった第二部のパフォーマンス編は「アニメーション史上に残る傑作」と讃えられる『霧の中のハリネズミ』の上映でスタート。

この作品は1975年、ロシア(※制作当時はソビエト連邦)のアニメーション作家ユーリー・ノルシュテインによって制作された短編アニメーション。小さなハリネズミが友だちの子グマを訪ねようと森の中を歩いていると、突如深い霧が現れ、ハリネズミの前で白馬やワシミミズクなどいろいろな動物が現れては消えていくというストーリー。

単なるファンタジーではなく、深い霧や、次々と現れる動物たちは何を表しているのかなど考えることも多く、食い入るように映像を見つめ、何かを感じ取っているかのような観客席の人々が印象的でした。

生演奏で歌を披露する小林良子さん(右)と羽賀美歩さん(左)。

「考えたくなるお話」パフォーマンス編の二つ目のプログラムは、ひろフェス音楽部門よりソプラノ歌手の小林良子さんとピアニスト羽賀美歩さんが登場。「宮沢賢治に捧ぐ演奏」として「星めぐりの歌」「虹の彼方に」を熱唱。美しいピアノの音色と歌声に癒されました。

パフォーマンス編の最後は、アーサー・ビナードさんと新谷真弓さんが 、2022年4月に発売された絵本『やまなし Mountain Stream』(今人舎)を朗読。宮沢賢治の名作『やまなし』をアーサーさんが翻訳、山村さんが絵を描きおろした作品で、日本文と英文の両方が掲載されたバイリンガル絵本になっています。

まるで川底がそのまま映し出されているかのように瑞々しい山村さんの絵を背景に、リズミカルな節回しで英文を朗読するアーサーさんと、身振り手振りをつけて感情豊かに日本文を朗読する新谷さん。二人がそれぞれに表現する宮沢賢治の世界観にしばし酔いしれました。

● 第二部 考えたくなるお話 対談編

全プログラムの最後を飾ったのは、アーサー・ビナードさんと山村浩二さん。宮沢賢治の名作『やまなし』について、物語のはじまりに登場する幻灯機の役割について、また「クラムボン」の正体についての考察が対談形式で繰り広げられました。

『やまなし』を翻訳する中でアーサーさんが一番悩んだ言葉が「クラムボン」。そのまま英語表記すると「cramboune」「 clamborn」ですが、「r」か「l(エル)」にするかで意味が変わるといいます。また「born」は骨、「clam」はハマグリ、とそれぞれが意味を持つ言葉であり、原文と異なる印象を与える誤訳になってしまうと悩んだと告白。

試行錯誤を繰り返した結果、アーサーさんがたどり着いたのは「クラムボンは人間界でいうところの「うんとこしょー、どっこいしょー」という囃子詞(はやしことば)や「ちちんぷいぷい」という呪文のような、カニたちの間で語り継がれてきたカニ語ではないか」という解釈。そして「この物語の根底にはプラトンの哲学「洞窟の比喩」があったはずだ」と力説しました。

山村さんもアーサーさんのカニ語説や哲学説に賛同しながら、物語の最初と最後に登場する幻灯機をめぐる場面や「クラムボン」が登場するシーンの制作秘話にも言及。その過程で描いたラフも公開しながら、採用にならなかった絵は「どうして使わなかったのか」、また採用した絵には「どんな想いを込めたか」について語るなど、興味深い話が続きました。

二人の対談が終わり、最後にSTU48の二人がアフレコしたひろフェスPR映像「ひろしま ハジマル」が公開され、3時間半に渡り繰り広げられた、メディア芸術と音楽にまつわる全8プログラムは無事終了しました。
この後も、8月の開催までにいくつかのアカデミー企画と、7月にもう一つプレイベントが予定されています。詳細については順次、この公式サイトやSNSで発表がありますので、そちらもどうぞお楽しみに。
 

● 参加者インタビュー


(左から)杢内俊太郎くん(13)と洋二郎くん(10)と千春さん親子。偶然通りかかったアーサー・ビナードさんと。
山村浩二さんとアーサー・ビナードさんの絵本の大ファンという杢内さん親子。洋二郎くんは、今回『やまなし』の絵本も事前に読んでこのイベントに参加してくれたそう。「本を読んだだけのときは何も思わなかったけど、朗読で聞くとクラムボンが笑ったり、死んだりしたのはどうしてだろうと疑問に思った」と、初めての気づきがあったことを教えてくれた洋二郎くん。兄の俊太郎くんも「小学6年のときに教科書で読んだのと違う印象を感じたし、アーサーさんの豆知識が面白かった」と感想を語ってくれました。と、そこになんと偶然、アーサー・ビナードさんが偶然通りがかり、お母さんが手を振ると近づいて来て、一緒に記念撮影をしてくれることに。二人は知り合いだったのかと聞くと「姿を見て嬉しくて、思わず手を振ってしまった」とお茶目なお母さん。気さくに対応してくれたアーサーさんの人柄に感動しきりの杢内さん親子でした。

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この「ひろフェス」は、“平和の種をまき、次世代を育てる”というコンセプトを掲げ、開催されるフェスティバルです。奇しくも世界では今、平和と対極にあるような出来事が起きています。このような状況の中でこのフェスティバルが、国際平和文化都市・広島で開催されることに大きな意義を感じます。また、国やジャンルといったあらゆる障壁を超え、違いを理解しあう姿を広島から世界に発信してくれることを期待しています。

そしてもう一つ、アニメーションシーズンのメンバーがこの「ひろフェス」で挑んでいる試み。それは、地域に開けた新しいフェスティバルの形をつくること。市内の映画館や文化施設、ギャラリーといった広島市全体の様々な場所も会場にして、一般市民も参加しやすい工夫や仕掛けがたくさん考えられているとか。また5月からはアニメーションを中心とするメディア芸術を用いた市民向けの教育プログラムも始まります。広島が世界とつながる瞬間、そして広島と音楽&アニメーションの出会いがもたらす化学反応をどうぞお見逃しなく!!

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