【イソナガアキコの公式レポート】アルス エレクトロニカ × ひろしまアニメーションシーズン 高校生の国際交流プログラム
こんにちは。ひろしまアニメーションシーズン2022 公式ライターのイソナガです。
3つ目の公式レポートとなる今回は、ひろしまアニメーションシーズン ・アカデミー部門の文化教育事業の一つとして、広島とオーストリアをオンラインでつないで開催された高校生の国際交流プログラムについてお届けします。
参加したのは広島市立基町高等学校の創造表現コースの1〜3年の12名の生徒と、オーストリアのボーグ・バート・レオンフェルデン校メディアアートコースの12名の生徒たち。このプログラムはオーストリアのリンツ市を拠点に活動するアルス エレクトロニカの協力のもと開催されました。
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日 時 5月19日(木)事前準備ミーティング(オーストリア)
5月24日(火)事前準備ミーティング(日本)
5月30日(月)15:30-17:00 第1回交流
6月2日 (木)16:30-18:00 第2回交流
場 所 オンライン
参加校 広島市立基町高等学校、ボーグ・バート・レオンフェルデン校(オーストリア)
協 力 アルス エレクトロニカ(オーストリア)
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当プログラムのコーディネーターを務めたアルス エレクトロニカの小川絵美子さん
ところでこの「アルス エレクトロニカ」という名前、初めて聞いたという方も多いのではないでしょうか。
アルス エレクトロニカは、オーストリアのリンツ市を拠点に活動するクリエイティブ機関。アートとテクノロジーを掛け合わせた最先端研究や教育文化事業を行いながら、文化や芸術を文脈にした未来志向のまちづくりを手掛けており、世界最大級のメディアアートの祭典や国際コンペを開催していることでも知られています。
先進的企業との共同研究やプロジェクトも多数抱え、世界の最前線で活動するアルス エレクトロニカが、日本の高校生を対象にした教育プログラムを実施するのは今回が初めて(!)という、とてもエキサイティングな試みでした。
体験こそがアートの原動力になる
2020年以降、世界は新型コロナウィルスに翻弄され続けてきました。もしかしたら最も大きな影響を被ったのは子どもたちかもしれません。基町高校創造表現コースの生徒たちも例外ではなく、新型コロナウイルス感染症の影響で全ての学校行事が中止され、生徒たちは制作活動のモチベーションを保つ難しさに直面し、またストレスから体調を崩す生徒も少なくなかったといいます。 同校の教諭である上川英紀先生も当時を振り返ったうえで、今回のプログラムに参加できる喜びについてこう話してくれました。
「生徒も、私たち教師もしんどい状況が続き、学校としても実体験を伴う活動をどう増やしていくかということが常に課題としてあがっていました。そんな中で海外の、しかも同じアートに取り組む同世代の子たちと交流できるというチャンスは、私たちをとてもワクワクさせてくれました」
上川先生はこのプログラムに参加するにあたって、準備は生徒たちに全て委ね、アドバイス等もあえてしなかったといいます。
「とにかくまず自分たちで考えなさい、と。そしてわからないことは調べなさいと伝えて、全部任せたんです。とはいえ、実はちょっと不安もあったんですが、蓋を開けてみれば作品を選ぶところから、どう表現すれば作品の内容がより伝わるか、ということも生徒たちはちゃんと考えて準備してきたんです。オンラインミーティング用のアプリもタブレットの自動翻訳機能も使いこなしていましたしね。感動しました」
そして上川先生がもう一つ、気がついたこと。それは生徒たちがいつもよりちょっぴりお洒落をしていた(ように見えた)こと。それが先生にはちょっと微笑ましかったのだそう。学生生活のほとんどをコロナ禍で過ごしてきた生徒たちにとって、もしかするとこの体験は「ハレ」の舞台だったのかもしれませんね。
さて、準備万端で迎えた当日の様子についてお伝えしましょう。
お互いの自己紹介から始まったオンライン交流。画面越しに見るボーグ・バート・レオンフェルデン校の生徒たちは日差しが差し込む明るい教室で1つの机を囲み、カジュアルな雰囲気。一方、基町高校の生徒たちは英語でスピーチしなければいけないというプレッシャーもあってちょっと緊張した面持ちでのスタートになりました。
でもその後、作品の紹介タイムになると様子は一変。いずれは留学することを考えているという3年生の黒目明日香さんは、チューリップを描いたキャンバスを手に持ち、流暢な英語で制作の経緯や作品のコンセプトについて紹介。その姿は実に堂々としたものでした。終わった後、感想を尋ねると、
「絵を出した瞬間にワーっと歓声が上がって、私の説明に対して『そうなんだ!』とか『すごい!』とポジティブに反応してくれました。思い入れのある作品だったので、想いが伝わったことがすごく嬉しかった」と声を弾ませました。
2日目となる6月2日は、1対1のフリースタイルで進められました。
初日と違ってあちこちで笑い声が上がるなど、終始リラックスムードで会話を楽しむ生徒たちの姿が見られました。話は学校のこと、プライベートについてなど多岐に及んだようです。特にお互いの学校のカリキュラムの違いについて、ボーグ・バート・レオンフェルデン校の生徒たちは「That they have a long schoolday!」と、日本の高校の1日あたりの授業時間の長さに驚いたようでした。
未来に可能性をつないだ2日間
今回の交流は、生徒たちの未来につながることを願って企画・実施されたアカデミーの国際交流プログラムでしたが、さっそくこの日まかれた種は、小さな芽を育みつつあるようです。
基町高校3年のサンガー梨里さんと2年の福本悠那さんは、ロシアのウクライナ侵攻のニュースを見て自分たちもできることをしたいと、ウクライナ国旗の青と黄を基調にしたオリジナルシールを制作・販売し、収益を寄付する計画を進めていました。今回の交流の際に梨里さんがボーグ・バート・レオンフェルデン校の生徒にその話をしたところ、ちょうど同校にウクライナから編入していた生徒も参加しており、梨里さん宛にその生徒から長文のメッセージが届いたそうです。
また彼女らの活動に興味を持ったボーグ・バート・レオンフェルデン校の生徒から協力したいという声があがり、近く、一緒に活動を始める話も進んでいるとのこと。 さらに同校の教諭からは、上川先生のもとに「一緒にアニメーションを制作しましょう」という提案もあったそうで、こちらも実現に向けて準備を始めているそうです。
5月30日と6月2日の両日とも参加。上川先生とともに進行を見守りつつ、基町高校の生徒たちをサポートした宮﨑しずかさん
この国際交流プログラムの実現に向けてアルス エレクトロニカをはじめ、関係各所との調整に奔走したひろしまアニメーションシーズン アーティスティック・ディレクターの宮﨑しずかさんもこう語ります。
「ひろしま国際平和文化祭は『平和の種をまき、次世代を育てる』というコンセプトをかかげています。それはアニメーションシーズン にアカデミーを設けた理由の一つでもあります。プロデューサーの土居さんとも『アカデミーの育成プログラムに参加した人がアニメーション作品をつくってコンペに参加したり、アワードで受賞するようになってくれたら素晴らしいよね』とよく話すのですが、もし基町高校とボーグ・バート・レオンフェルデン校が、今回の交流をきっかけにアニメーションを制作して、それがコンペイン(入選)したら、と考えるのはとても素晴らしいことです。もちろん簡単なことではないですが、ぜひチャレンジしてもらいたいし、両校のこれからに期待したいですね」
たくさんの人の想いが集まって実現したアカデミーの国際交流プログラム。もしかしたら、この交流に参加した生徒の中からアニメーション作家が誕生するかもしれません。
基町高校の教室から見ることができる広島城
取材・文・写真