ひろしまアニメーションシーズン2022

JOURNAL ジャーナル

2022.07.13 イベントレポート 公式レポート

【イソナガアキコの公式レポート】ひろしまアニメーションサロン①「文化で街を作る」

こんにちは。ひろしまアニメーションシーズン2022公式ライターのイソナガアキコです。
4つ目の公式レポートとなる今回は、アニメーションや文化芸術が街づくりや文化創造のヒントとなることを探るため、622日に開催された、ひろしまアニメーションサロンのレポートをお届けします。

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日 時 622日(水)
場 所 KIROKIRO 広島 by THE SHARE HOTELS 3F

基調講演 
小川秀明(アルスエレクトロニカ・フューチャーラボ共同代表/札幌国際芸術祭2024ディレクター)
※リンツよりオンライン登壇
プレゼンター
谷口千春(株式会社真屋取締役/minagarten(ミナガルテン)代表)
今田順(地域価値共創センター ディレクター/ブックキュレーター)
司会
土居伸彰
(株式会社ニューディアー代表/ひろしま国際平和文化祭メディア部門・ひろしまアニメーションシーズン2022プロデューサー)
※東京よりオンライン登壇
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アート×テクノロジーで未来志向の創造都市をつくる



オーストリアと東京、そして広島会場(KIRO広島)の3拠点をオンラインで繋いでハイブリット開催されたひろしまアニメーションサロン。テーマは「文化で街を作る」。それは新しく立ち上がるフェスティバルであるひろしまアニメーションシーズンにとって目指すべき目標であり、広島にとっても非常にタイムリーなお題でした。というのも現在、広島市中心部において大規模な都市再開発が急ピッチで進んでおり、国際平和文化都市「ひろしま」の未来に多くの人が関心を寄せているからです。

メインゲストの小川秀明さんは、オーストリアのリンツを拠点とするアートとテクノロジーのクリエイティブ機関「アルスエレクトロニカ」にアーティスト、キュレーター、リサーチャーとして2007年から参画。現在は、同機関の研究開発部門であるアルスエレクトロニカ・フューチャーラボの共同代表として、未来をプロトタイプする国際プロジェクトを数多く手掛けています。また、札幌国際芸術祭2024のディレクターへの就任も発表されています。

アルスエレクトロニカといえば、衰退した工業都市だったリンツを未来志向の創造都市に発展させたメディアアートの最高峰機関。その歴史的偉業にメンバーの一員として貢献した小川さんの話が聞けるとあって、会場には広島の美術関係者やエリアマネジメントに関わる人も多数参加していました。

「ひろしま国際平和文化祭の開催が決まり、単なる打ち上げ花火的なお祭りにしたくないと考えたとき、アルスエレクトロニカの実践が真っ先に頭に浮かび、ぜひ小川さんのお話を聞きたいと思った」と期待を滲ませる土居伸彰 ひろしまアニメーションシーズン プロデューサー。その想いに応えるように、アルスエレクトロニカがどうやってリンツにイノーベーションを興したのか。そこからどのようにカルチャーが生まれ、シビックプライドが育ったのか。それがどんなブランドになって、エコノミーになったのか。小川さんは、実際の受賞作品の映像など具体的な事例の紹介を交えながら、一つひとつじっくり語ってくれました。

例えば、世界中から3000件を超えるサブミッションが届くアワード「プリ・アルスエレクトロニカ」の存在価値についてや、アートと文化の力で超巨大タバコ工場をハッキングして300以上のスタートアップが集まるクリエイティブ拠点に変えた話など。他にもたくさんありましたが、とにかくどれもが興味深い内容で、気がついたらメモ用のノートは軽く10ページを超えていました。


広島がこれから目指すべき街づくりとは



小川さんの講演後は、広島を代表して二人の街づくりプレイヤーが登場し、それぞれ活動中のプロジェクトについてミニプレゼンを行いました。コミュニティ施設「ミナガルテン」を運営する谷口千春さんは、広島市郊外の皆賀という場所で「人と暮らしとウェルビーイング」をテーマに取り組んでいる街づくりについてプレゼン。シェアキッチンやアーティスト・イン・レジデンスの運営、園芸活動やマルシェ、これから立ち上がっていくクリエイティブ・コミュニティの実践についてなど、ミナガルテンの多岐にわたる取り組みを紹介しました。

地域価値共創センター・ディレクターの今田順さんも、広島市中心部の紙屋町・八丁堀エリアで、アート要素を取り入れながら地域価値を高める実験など行う「カミハチキテル」の活動についてプレゼン。小川さんは二人のプレゼンについて、「感性が非常に高く、創造的なアクションを実践されている。分断の時代にリアルに従属できるコミュニティを作ろうとしていること、またアートがそこの潤滑油になっているという点は、私たち3人が共有できることだと思う」と、二人に熱いエールを送りました。


今田さんから「我々もアルスエレクトロニカのようにクリエティブな展開をしたいが、リンツではどういう風にスタートを切ったのかお聞きしたい」と質問があがると、「一気につくりあげてゴールを評価するのでなく、ちょっとずつトランスレーションすることでリスクを減らし、プロセスに価値を持たせることと、KPI(指標となる数値)よりもストーリーをまず伝えて共感を得ることが大事だと思う」とアドバイス。

また土居さんも「リンツの改革はリンツという都市だったからできたのか、それとも他の都市でも起こりうるのか。起きうるなら、それに必要な材料は何なのか」と質問。それに対しては「リンツ以外の都市でもありうる」としたうえで「リンツの場合、1996年にセンター(美術館)やラボ(研究所)ができて、「蛇口を回すと水が出るように、蛇口を回すと未来が体験できる」ということを具現化できたことが大きかった。他の都市においてもセンターやラボのような存在が必ず必要というわけじゃなくて、地域と連動した動きを考慮した事業の設計ができれば、リンツのような生態系が立ち上がってくるかもしれない」と答えました。


セッションは次第に熱を帯び、登壇者と参加者の集中力が高まる中、広島で進行中の再開発計画で、図書館を駅前の商業施設の中へ移転させる話が浮上している件について谷口さんは、「既存の建物があっての街づくりとなると、どうしても玉突き引越しみたいなことが起きることがある。その対策として、例えば複数の施設の中から必要な機能だけを集めて1つの場所に小さく据えるとか、逆に一緒になくていい機能は分散するとか、ハコにこだわらず機能だけを再構築していく方向で考えることに関心があるが、それについてはどう思うか」と小川さんに意見を求めました。

それに対しては「システムに注目するのは、とても平和的なアプローチだと思う」と小川さん。「図書館をどこに移転するとか、どんな図書館をつくるかという話じゃなく、どんな新しいシステムを作りたいかという風に変換すれば、みんなが良いシステムを求めてロジカルな議論ができるようになると思う」と谷口さんの提案に共感しました。

札幌国際芸術祭2024のディレクターに就任することが決まり、今まさにその準備中だという小川さんは「札幌国際芸術祭を創造エンジンにすると言って、周りに難題を投げまくっている」と笑いながら、「前例のないことをしようとするのでみんな戸惑っていると思うが、札幌や広島や同じような課題を抱えているところが今回のように対話の機会をつくって、互いにノウハウやプロセスをどんどん公開していけばいいと思う」と提案。

土居さんも「ひろしまアニメーションシーズンもこういうサロンを企画するくらいなので、今後も変わったアプローチで、アニメーションを通じて社会的なことを実践したいと考えている。今後もこのようなサロンを継続的に行い、コミュニケーションの場をつくり続けていけば、最終的に大きな流れにつながっていくと思う」と賛同し、「大きな先行の例を見せてもらえた素晴らしい2時間でした。ありがとうございました」と、小川さん、谷口さん、今田さんをねぎらいました。

サロンを終えて

小川さん、そして谷口さん、今田さんの話を聞いて、街づくりとは未来指向の都市の創造であること、そのエンジンの一つとしてアートが果たす役割と、クリエイティブ思考を養う教育の重要性を痛感しました。ひろしまアニメーションシーズン が今年、来年と続いていく中で、アートに対する概念がアップデートされ、広島の文化インフラが構築される未来がくることを願わずにはいられません。

 

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