【イソナガアキコの公式レポート】開幕直前企画!アーティスティックディレクターに聞く、ひろしまアニメーションシーズンの愉しみ方
こんにちは。ひろしまアニメーションシーズン2022公式ライターのイソナガアキコです。
いよいよ開幕直前!「ひろしまアニメーションシーズン2022」を牽引する二人のアーティスティック・ディレクター、山村浩二さんと宮﨑しずかさんに、「ひろしまアニメーション・シーズン2022」の見どころや、「アニメーションの映画祭は初めて」という人にお伝えしたい!映画祭の愉しみ方についてお話を伺いました。
ひろしまアニメーションシーズン2022 に懸ける想い
ひろしまアニメーションシーズン2022は、広島国際アニメーションフェスティバルの終了に伴い新設された「ひろしま国際平和文化祭」(8月1日〜21日開催)の一部として開催される国際アニメーション映画祭です。
それは、映画祭という大きな事業をゼロベースで組み立て直すということであり、限られた時間とリソースの中で山村さんと宮﨑さんは、プロデューサーの土居伸彰さんとともに「これからのアニメーション映画祭がどうあるべきか」という提言も示したいという想いで、様々なチャレンジを実行中です。
例えば、一般的な映画祭といえば国内外のアニメーション作品が一堂に集い、競い合う「コンペティション」が中心ですが、ひろしまアニメーションシーズン2022ではコンペティション以外に、アニメーション関係者の顕彰や評価を行う「アワード」、そして地域に育成と学び合う場を提供する「アカデミー」という2つの柱を設け、アカデミーでは地域に根ざしたワークショップやサロンを開催するとともに、世界で活躍するアニメーション作家を招へいするというアーティスト・イン・レジデンスにも取り組んでいます。
これだけの大仕事ですが、山村さんは主にコンペティションとアワードのキュレーションやプログラミングを、そして宮﨑さんはコンペティションの審査に関わりつつ、アカデミーやアーティスト・イン・レジデンスの対応全般、というように、効率よく分担してそれぞれの役割を果たすことに全力を尽くしています。
100日前プレイベントでプロデューサーの土居伸彰さんと打ち合わせする二人
私がお二人に初めてお会いしたのは4月16日(土)、JMSアステールプラザで開催された100日前プレイベントのとき。山村さんは当日朝、東京から広島入りし、その足で地元のラジオに出演。会場に着くなりそのままリハーサルに突入するという超ハードスケジュール。そして宮﨑さんも前日の会場の準備の立ち会いから、イベント当日は総合司会まで担当するという忙しさ。それでも終始にこやかに職務を全うされる二人を支えるもの、それは間違いなくアニメーションへの深い愛情にほかならない!と、これまでの取材で感じています。
控室でリラックスした表情の山村浩二さん
いつも明るく場を和ませてくれる宮﨑しずかさん
例えば、コンペティション作品の選考についての話の中で、こんなエピソードをお聞きしました。
当初、コンペティション作品の選考方法については、山村さんと宮﨑さん以外の二人の選考委員がまずプレビューして絞った作品を、アーティスティック・ディレクターの2人がさらに選考するという制度設計だったそうですが、2022年1月にコンペティションの応募作品が届き始めると、誰よりも早く作品を観始めたのが山村さんだったといいます。
「新しく始まる映画祭だということもあって、どんな内容の作品がどれくらい集まるか気になっていました。なので宮﨑さんを誘いまして(笑)、全部目を通すことにしました」と山村さんがいうと、「そうそう、届いた作品を片っぱしから観ていく山村さんを見て、『ああ、全作品、最後まで観るっていうのは本気なんだな』と、私も覚悟しました(笑)」と、宮﨑さん。
宮﨑さんが「覚悟」という言葉を使ったのには理由があります。それはお二人が観たという作品の数…なんと2149本。しかもただ鑑賞するだけでなく、評価もしながらということを考えると実に驚異的な数字です。
「単に好きなんですよ、アニメーションが。それにね、未公開の作品や普段接することのないようなものが観れるんですから楽しいですよ」という山村さんの言葉に微笑む宮﨑さん。それは二人共通の想いだったようです。
6月27日に比治山大学で行われたワールドコンペティション「寓話の現在」の審査会の様子。
(左から「寓話の現在」の審査員を務めた、アーサー・ビナードさん、世武裕子さん、宮﨑しずかさん)
ちなみに山村さんはこれまでも多くの映画祭で審査員を経験してこられましたが、2000本以上の作品を観たのはさすが初めてだったそう。
「1500本くらい観た経験はありましたので、ここ数年、世界でどんなアニメーション作品がつくられているのかという概要はおよそ掴んでいたつもりですが、今回は選考前の全くセレクトされていない、いわば応募作品の裾野まで全て観たわけで、その経験はとても面白かったですね。時代が透けて見えるということもあるし、世界の現状というか、もちろん100%ではないですが、非常に広く見渡すことができたと思います」
審査会や映画祭の意義について「映像だからオンライン配信でいいじゃないかという意見もあるが、本当の意味で価値観をシェアするには対面ということがすごく重要」と山村さんはいう。
ちなみに、集まった作品について何か特徴的なことはあったかと聞いてみると、日本を舞台にした作品や日本文化をモチーフにした作品が多くみられたそうで、そこがヨーロッパ中心の作品が多かったこれまでの映画祭と大きく違う点だったとのこと。
また、エドガー・アラン・ポーの小説をもとにした作品が何本かあったことも印象に残ったらしく、ポーといえば1800年代に活躍した小説家で、死の恐怖をテーマにした作品を書き続けたことでも知られていますが、「今というこの時代に、ポーの小説をテーマに選ぶ作家が多く現れたということは、もしかしたらコロナ禍が影響しているのかもしれません」と山村さんなりの考察を教えてくれました。
それにしても短編ばかりでなく1時間以上の長編もある作品を2000本以上観続けるとは、一体どれほどの時間がかかったのでしょう。恐る恐る尋ねてみると「1月から始めて、3月末まで毎日コツコツと見続けました」とのこと。これはもう、お二人の中にアニメーションへの深い愛がなければ実行できなかったと言っても過言ではないでしょう。いやはや、恐れ入りました。
初心者でも大丈夫!ひろしまアニメーションシーズンの愉しみ方
山村さんと宮﨑さんも制作に参加した「ひろしまアニメーションシーズン2022」のトレイラー
さて、いよいよ8月17日から、各会場でコンペティション作品の上映がスタートします。アジアおよび太平洋に面した国・地域で製作された作品を対象に選考・審査を行う「環太平洋・アジアコンペティション」と、全世界で制作された作品を対象に、作品の性質によって設けられたカテゴリ別に選考・審査を行う「ワールドコンペティション」の2種類が用意されています。
国際的な映画祭というとなんだか敷居が高そうですが、ひろしまアニメーションシーズン2022は「地域性をもった映画祭」を目標として掲げ、アニメーションや映画祭は初めてという人にこそぜひ訪れてもらいたいと、企画の段階から様々な工夫を重ねてきたといいます。そんなひろしまアニメーションシーズン2022の愉しみ方について、お二人にそのコツを伝授いただきました。
「まず今回のコンペティションの大きな特徴として、内容によってカテゴリー分けしたことがあります。なので興味のあるカテゴリーからまず観ていただきたいですね」と山村さん。実はこのような映画祭では『フィンクションとノンフィクション』や『短編と長編』というように、技術的な面や時間という枠組みでカテゴリー分けされることが多いのだとか。でも、それだと外部の人はどんな作品があるのかわかりにくいですよね。
そこで今回の「ワールド・コンペティション」では、
①フィクション系の作品が集まる「寓話の現在」
②ドキュメンタリーや社会問題などを扱う「社会への眼差し」
③ポエティックな作品が集まる「光の詩」
④アニメーションならではのユニークなストーリーテリングをする「物語の冒険」
⑤子供向けの「こどもたちのために」
という計5つのカテゴリーに分けることにしたそうです。
確かに、このカテゴリーを目にしたとき「社会への眼差し」や「こどもたちのために」といったカテゴリーテーマが気になり、それらの作品を観てみたいという思いに駆られました。このように内容がわかれば、自分の興味のあるテーマの作品をめがけて観に行くことができますね。
宮﨑さんは「今回は観客に寄り添ったとても優しいプログラム構成になっているので、それぞれ個人がもっている感情、例えば仕事で疲れているとか、子育て中なのでいつも子どものことが優先になっているとか、今の自分が引っかかるテーマを糸口に、そこから結び付けられるカテゴリーを見つけてほしいです。あとは『この映画良さそう』とか『なんか好き』というインスピレーションも大切にしてもらえたら」とのこと。
また山村さんも「短編作品は特に抽象的でわかりにくいという意見も聞きますが、心を開けば作者がその作品で何を語ろうとしているのか、絵と音と映像から作者の声が届いてくるかもしれませんよ」とのこと。アドバイス通り、心を全開にして作品を鑑賞してみたいと思いました!
さて、コンペティション作品は8月17日からJMSアステールプラザ(広島市中区)と横川シネマ(広島市西区)で上映されます。プログラムも全て発表になったので、ぜひチェックしてみて会場に足をお運びくださいね。
→上映プログラムはこちら
広島の皆さんへメッセージ
山村さんと宮﨑さんから広島の皆さんへメッセージをいただきました。
会場でお二人を見かけたら、ぜひお声をかけてみてくださいね!
山村浩二さん
創作者として、教育に携わるものとして、アニメーションについて色々考えてきた自分にとって、ここ2年間の世界のアニメーションの状況、広島を連ねている環太平洋アジアという一つの地域のつながりをみなさんと一緒に感じたいという思いがあります。アニメーションや映画というものが、どちらかというとヨーロッパ中心の考え方に寄ってしまいがちなのですが、アジアと周辺の国々を意識する事で、日本の価値観も浮き彫りにされるんじゃないかという期待もあります。その辺りを皆さんと一緒に見つけていきたいと思います。
プロフィール
「頭山」(2002年) が第75回アカデミー賞にノミネート他6つのグランプリを受賞。数多くの作品で受賞多数。過去25年間の優れた世界の短編監督25人のトップ2に選出。世界4大アニメーション映画祭すべてでグランプリを受賞した唯一の監督。川喜多賞、芸術選奨文部科学大臣賞受賞、紫綬褒章受章。
宮﨑しずかさん
広島の人たちが情熱があったからこそ、ここまで辿り着けたという感謝の気持ちでいっぱいです。アカデミーでは、子どもを対象にしたワークショップやまちづくりについて考えるサロンも開催しました。そこには広島を心から愛している人がたくさんいて、うまくいってないこともあるけどそれを変えようとしている人もいて、そんな動きがあったからこそ、私たちもその一部としてともに活動させていただけたところもあったかなと思います。これからもそうした動きの歯車を回す一員として、広島の未来を育むお手伝いできたらと思います。
プロフィール
広島市在住。東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻を修了し、現在、比治山大学短期大学部美術科で教鞭をとっている。ピクシレーションというアニメーション表現技法で撮影した「キドモモドキ」(2013)はファントーシュ国際アニメーション映画祭(2020)ほかで上映されている。日本アニメーション協会会員。
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