ひろしまアニメーションシーズン2022

JOURNAL ジャーナル

2022.08.10 コンペティション紹介 公式レポート

ワールドコンペティション 「光の詩」

☆プログラム概要

「光の詩」は、アニメーションにおいて「詩」であろうとする作品を集めたプログラムだ。

例えばToni Mitjanit『Clockwise』やRéka Bucsi『Intermission』は幾何学的な図形がテンポよく展開していく作品であり、物語を一切語ることがないまま、ビジュアルやリズムの気持ち良さだけで観客を魅了する。「光の詩」の英語タイトルである「Visual Poetry」が、オスカー・フィッシンガーの「Optical Poetry(視覚的な詩)」のオマージュであることを考え合わせれば、まさに「視覚的な詩」とでも言うべきこれらの作品は「光の詩」というカテゴリを体現していると言えるだろう。

興味深いことに、山村はこのカテゴリの作品を花火に例えている。花火は何か特定の対象を描いたりストーリーを語ったりせずとも、光の美しさのみで見続けることができる。それと同じように「光の詩」の作品も、ただ眺めていればそこに映像としての喜びと陶酔が訪れる。このカテゴリにはFelix Dufuour-Laperriere『Archipel』やJonatan Schwenk『Zoon』のように、物語性を見出すことができる作品も含まれているが、「光の詩」というカテゴリ名はこういった作品をも、光そのものを楽しむようにして観るようにと促しているのだろう。

 

☆アーティスティック・ディレクター山村浩二が語る、「光の詩」の見どころ

「一瞬一瞬のビジュアルが詩的に響いてくる映像(光と影)。花火のように、ストーリーや展開の連続性がなくても見ていられる、光そのものを楽しめるような作品が集められています。」

☆選出作品紹介

Intermission (Réka Bucsi/Hungary/4 min)

作品スチル

あらすじ

静止画の動きを繰り返し、視覚的なイメージを追求した作品。音楽を聴きながら形成される心象風景を投影したもの。線を引くという単純な行為から、自己生成できるアニメーションの複雑な動きや複雑な構造まで。

 

☆選考委員のおすすめポイント

このカテゴリの中でも、最も抽象度が高く純粋な作品。全体が作者の持つ美意識によって貫かれているために、コンセプトやドキュメンタリー性、画像の是非に依らずに「動く映像」として成立している。(山村浩二)

 

ハンガリーの作品ではあるが、こういった幾何学的な抽象表現を美しいと感じる美意識自体は、都市化や産業の発達を背景とした西洋ヨーロッパのものだと思う。こういう作品を作ろうとしても、ここまで美しいものにはなかなかならないと思うからこそ、この作品を美しいと思う自分はどういった価値観にハッキングされているのだろうと考えてしまった。(宮嶋龍太郎)

 

 

Promised Land (Andrea Pierri/Italy/8 min)

作品スチル

あらすじ

新しい約束の地であるヨーロッパの南海岸を目指し、毎日何人もの人々が地中海で命をかけています。しかし、かつてモーゼの通過を許した海は、今や無数の犠牲者の物語と命に無関心で閉ざされている。

約束の地への長い旅の途中で姿を消した女、男、子供たちの最後の持ち物を集めながら、ひとりの老人が荒れ果てた浜辺をゆっくりと歩いている。

私たちの身の回りにある日常的な現実。

 

☆選考委員のおすすめポイント

 

 

変形して奇形する (中澤ふくみ/Japan/8 min)

作品スチル

あらすじ

人以外のものの消費を必要としない世界で、自分自身の体を変形させて、自分の体を使って生活する人々。

 

☆選考委員のおすすめポイント

美しく根源的な作品で、この作品が「光の詩」とは何かを教えてくれた。紙を重ねて撮影することで紙の奥に時間と光が積み重ねられていき、そのことによってアニメーションが実在化していくような感覚を覚えた。(矢野ほなみ)

 

 

Clockwise (Toni Mitjanit/Spain/3 min)

作品スチル


あらすじ

Clockwise』(2021)は、時空の概念、空間と時間の測定単位の無限細分化に関連するゼノンのパラドックス(二分法と矢のパラドックス)、およびそれらの実験的抽象音響映像表現を探求する、生成的かつ実験的視聴覚作品である。

Clockwise』は、作曲家/プロデューサーのDaniele Carmosinoと作曲家/ピアニストのMark Aanderudとの実験的なスタジオセッションで始まった。セッション中、彼らはピアノのハンマーと弦の間にティッシュペーパーの層を追加してピアノを改造し、美しいパーカッシブなクリスピーサウンドを生み出し、Markが非常にリズミカルな即興演奏をするのを促した。これをベースにして、Danieleはオペラ歌手とホーンの生演奏を録音し、アナログ機材で音を操作することで、残りのトラックを作り上げた。その後、Ribes MasteringJuan Ribesがミキシングとマスタリングを担当した。

その後、ポリゴンの再帰的細分化、モーショングラフィックス技術、計算の複雑さとランダム性、高速フーリエ変換(FFT)の分析に基づくオーディオ反応、人間と機械のインタラクションなどの異なったアルゴリズムを駆使する、実験アニメーターToni Mitjanita.k.a. Spaghetti Coder)の創造的なプログラミングによって、『Clockwise』の映像が生成された。

このオーディオビジュアル作品では、ランダム性、ノイズ、オーディオから抽出されたデータを用いて再帰的に分解・細分化され、適用する多角形分割技術、使用するカラーパレット、3次元変換特性(位置、スケール、回転)、その他多くの視覚的側面が決定され、さまざまな幾何学模様がカオス的に出現している。ビジュアルデザインのToni Mitjanitは、ポップアーティストであるEduardo Paolozziのモザイク画やGunta Stölzlのタペストリー、バウハウススクールにインスピレーションを受けつつも、ピクセルアートやビジュアルミュージックに非常に近いアプローチを用いた。

 

☆選考委員のおすすめポイント

作品のコンセプトのベースになっている、ゼノンの「矢のパラドックス」。これは、無限分割によって、最終的には飛んでいる矢は止まっている、というパラドックスで、一枚一枚は止まっている絵が動いて見えるアニメーションの原理と重なります。またタイトルは「時計回り」という意味で、スクリーンと観客の身体的な位置関係によって初めて浮上する問題で、大変興味深いアイディアです。このようにメディアに対する自覚的なコンセプトが、万華鏡のように、目眩く図形の反乱を起こしているのです。(山村浩二)

 

 

Zoon (Jonatan Schwenk/Germany/4 min)

作品スチル

あらすじ

夜の森の暗い沼地で、光り輝くアホロートルの群れが、互いの手足をくっつけ合い、かじり合いながら発情している。やがて、もっと大きな二本足の森の住人が、欲望にまみれた一団に遭遇し、小さな光る生き物の一匹を食べようと手を伸ばしてきた。そして、ふくよかな仲間も加わり、宴会が始まった。夜がゆっくりと明けていく中、枝の上の方では陽気なゲームが始まっている。

 

☆選考委員のおすすめポイント

意外性のある物語にも驚いたが、それ以上に造形の美しさと繊細な動きを評価してこのカテゴリーに入れた。瞬間瞬間の美しさだけでもずっと見ていられる。(宮﨑しずか)

 

 

Archipel (Felix Dufuour-Laperriere/Canada/72 min)

作品スチル

あらすじ

架空の島々を描いた本格的なアニメーション映画。想像上の、言語上の、政治上の領域について。現実の国や夢の国、あるいはその中間の国について。『Archipelago』は、ドローイングとスピーチで作られた長編映画で、私たちの世界と時代を少しでも伝え、夢見るために、その場所とそこに住む人たちを伝え、夢見る。

 

☆選考委員のおすすめポイント

この生き物は光輝きながら、重力から解き放たれて、宇宙の根源、ビックバンへ物質から光へと逆再生していくように想像しました。アニメーションとマペットの融合という面白い動きの作り方で生き物らしさを表現しています。これも物語というよりは、生態系の連なりを眺める光の詩です。(山村浩二)