ワールドコンペティション「こどもたちのために」
☆プログラム概要
「こどもたちのために」は、タイトルがそのまま示すように、「こどもたちに見てほしい」作品が選ばれている。見ていて単純に楽しく、しかし考えさせられる余地もある作品がラインナップされており、全年齢対応のプログラムであるといえる。
かつての広島国際アニメーションフェスティバルの常連作家だったIsabelle Favez『Giuseppe』は友達のウサギと冬を楽しむために、親の目を盗んで冬眠から覚めたハリネズミの冒険を描いている。物語の面白さはもちろん、ちょっとした細部の一つ一つが可愛らしい、見所の多い作品だ。また、Vincent Patar, Stéphane Aubier『A Town Called Panic: The Summer Holidays』は、日本でも公開されたことのある人気シリーズの最新作。奇想天外な出来事が矢継ぎ早に繰り出されるドタバタコメディで、こどもはもちろん、大人が見ても抱腹絶倒間違いなしだろう。
このカテゴリにはまた、教育的効果を持つ作品も含まれている。Marcel Barelli『In Nature』は同性愛を中心とした、自然界における動物たちの多様な性愛をコミカルに紹介している。こども向けの作品としては類例がなく、注目作の一つと言えるだろう。また、Natalia Ryss『François Couperin. The Alarm Clock』は、クラシックの楽曲に合わせて幾何学的な図像が様々な形を取っていく作品であり、音楽教育的な側面を持つと共にアニメーションとしても現代美術としても見応えがある。こどものための芸術教育には最適な教材だと言えるだろう。
☆アーティスティック・ディレクター山村浩二が語る、「こどもたちのために」の見どころ
「こどもたちのために」には「どの作品が面白かったか」という話題だけではなく、作品の内容について世代を超えて一歩踏み込んで語り合えるような、そういった作品が揃っています。
☆選出作品紹介
・Giuseppe (Isabelle Favez/ Switzerland/26 min)
作品スチル
あらすじ
冬眠しないハリネズミがどうなってしまうのかという怖い伝説がありますが、ジュゼッペは今年、眠らないことに決めました。でも、今年の冬は思うように雪が降ってくれません。そこで、ジュゼッペと2匹のウサギの仲間たちは、雪を探す旅に出ることにしたのです。
選考委員のおすすめポイント
「冬」に祝祭や新しい命を見出すところに北欧的感性を感じた。登場人物たちも可愛く、ハリネズミの友達に帽子をあげるシーンを見た時、帽子の造形の愛らしさも相まってこの作品のファンになっていた。(矢野ほなみ)
ストーリーテリングと切り紙の動きで魅せる作風が特徴的で、インディペンデントの作家として、映画祭シーンでよく知られる監督が、商業のフィールドでも活躍する姿が、嬉しい。幼児向けで、優しい世界。(山村浩二)
・Spinning (Tzu-Hsin Yang (Cindy Yang)/Taiwan/5 min)
作品スチル
あらすじ
おばあちゃんから旅行の提案を受けたハオハオは、祖父母とともに台中の楽しい場所や、懐かしい思い出の場所を巡る旅に出ます。監督は台湾の心温まる家族の物語を、オリジナル曲とともに、独特の画風と流れるようなアニメーションで表現することに成功しました。
選考委員のおすすめポイント
子供の視点から親や祖父母といった上の世代が直面しているものを描くときに、いずれ訪れる別れの必然性を悲しむでも嫌がるでもなく、ごく当たり前のものとして描いている。ミュージックビデオ的な要素もあり、純粋なる喜びをアニメーションで高らかに歌い上げているような感覚を覚えた。(矢野ほなみ)
・In Nature (Marcel Barelli/Switzerland/5 min)
作品スチル
あらすじ
自然界では、カップルはオスとメスである…というわけでもありません!メスとメス、あるいはオスとオスのカップルもいます。知らないかもしれませんが、同性愛は人間だけの話ではないのです。
選考委員のおすすめポイント
同性同士の親密な関係は人間の中だけではなく動物世界にも広く自然に存在していることを、ユーモラスにダンスやオペラを交えて明るく描いた作品。全年齢向けのクィア作品がついに出たことが喜ばしい。(矢野ほなみ)
・Miranda! - El arte de enamorarte (Dante Zaballa/ Argentina/3 min)
作品スチル
あらすじ
主人公は、失ったものを取り戻すという困難な使命に、情熱と自信をもって立ち向かいます。レゲエ、ポップス、80年代のリズムにのって、悔い改めながらも過去の過ちから立ち直り、自分の運命に立ち向かいます。
選考委員のおすすめポイント
ときめいてため息が出た。アニメーションをやってよかったなと思うくらい、深い感動を得られる作品。(矢野ほなみ)
監督はカーディフ・アニメーション・フェスティバルでもメインビジュアルを担当しているが、単に丸い円の中に目がちょんちょんと描かれているだけでも彼の絵だとすぐにわかった。この作品も個性が出にくい絵柄だが、彼の底なしの柔らかさと感性が出ており、単に可愛いキャラクターを出すこととは別の次元に彼の才能があることがわかる。(宮嶋龍太郎)
・François Couperin. The Alarm Clock (Natalia Ryss/Russia/3 min)
作品スチル
あらすじ
創世記を描いた小さな映画です。
音楽アニメーションのアルバムを作るというアイデアは、イリーナ・マーゴリナが発案しました。
クラシック音楽の作曲家による子供のための作品を、若い音楽家やヤコブ・フライヤー・チルドレン・スクール・オブ・アーツの生徒が演奏します。
私のこの小さな映画は、「こどものアルバム」の中の1エピソードです。(映画1. バロックとロマン派)
選考委員のおすすめポイント
子どもにとって、音楽のリズムや構造の理解のために、アニメーションは最適と言えます。リズム、メロディー、音質など音楽的要素とのシンクロナイズが楽しい作品です。(山村浩二)
・A Town Called Panic: The Summer Holidays (Vincent Patar, Stéphane Aubier/Belgium, France/26 min)
作品スチル
あらすじ
学校が終わりました。インディアンとカウボーイはだんだん退屈になってきました。ボートを作り、冒険の旅に出ることにしました。だけど最初の試みは大失敗。動物たちの助けを借りて、ようやく自慢の船を完成させます。でも計画通りになんかいくはずもなく…。
選考委員のおすすめポイント
主人公たちが夢の中に入るシーンがあるが、夢じゃないシーンが既に大胆なおかげで、夢のハチャメチャさを自然に受け入れられた。他の作品とは全く違う夢の使い方で面白い。(宮嶋龍太郎)
この二人の監督のデビューの頃から大好きな作家です。日本ではまだフィーチャーされていないからこそ、今回このカテゴリで紹介できることがとても嬉しい。同じシリーズを長年続けてきたからこその到達点。普段見慣れているエンターテイメント的なアニメーションとは全く違うベクトルを向いていながらも、アニメーションでしかあり得ないナンセンスな世界を描いており、思う存分楽しめる作品。(山村浩二)