【イソナガアキコの公式レポート】ひろしまアニメーションシーズン2022 デイリーレポート④ 2022.8.20
こんにちは。ひろしまアニメーションシーズン2022公式ライターのイソナガアキコです。2022年8月20日(土)、ひろしまアニメーションシーズンの4日目のレポートです!
今日も豪華プログラムが目白押し!田中泯さんと山村浩二さんのトークセッション、そして『犬王』。体が2つも3つもあればいいのにと思う毎日です。
誰もが参加しやすい映画祭を目指して
1階の市民ギャラリーでは「誰もが参加しやすい映画祭を目指して」のシンポジウムが開かれました。登壇したのは、コンペティションの選考委員や審査員も務めた矢野ほなみさん、Miyu Distribution(配給会社)代表のルース・グロジャンさん、アーティスティック・ディレクターの山村浩二さんと宮﨑しずかさんの4人。
新しい映画を立ち上げるにあたり「みんなが気持ちよく参加できる映画祭にしたい」とハラスメント防止のガイドラインを設けたこと、またルースさんが関わる国際的なアンチハラスメント組織「Keep Festive」の紹介とプレゼンがありました。
映画祭が安全な場であることが大切という共通認識のもと、それぞれの立場から活発なディスカッションに発展しました。例えば、主催者の立場として「作品の紹介だけでなく作者(監督)も招待する映画祭において、作品と制作者の人格をどう切り分け、どう結びつけるのか」という難しさに言及した山村さんに対し、作品の重要性を重視して上映だけするケースや作品も除外するケースなどいろんな方法があり、その正解を決めるのは本当に難しいとルースさんも応えました。
またトリガーウォーニング(性的描写や暴力的表現などがあることを事前に警告すること)についてどう思うか、という矢野さんの投げかけに対して、「トリガーウォーニングすることは一般的な常識になっていく方向だと思う。伝えることでかなりショッキングな内容も上映できるようになるが、どこまで警告すべきかという基準は私にもわからない」としたルースさんに対し、観客席にいたオタワ国際アニメーションフェスティバル(OIAF)の芸術監督も務めるクリス・ロビンソンさんは「そもそも(作品を観て)不快になるということは悪いことなのだろうか」と疑問を投げかけました。
それに対して山村さんは「作家の立場として言うなら警告は必要ないと思っているし、社会の倫理性に揺さぶりをかけていくくらいの作品こそがパワーのある作品だと思っている」として、立場や地域性、そして時代の潮流の影響を大きく反映するこの問題の難しさを訴えました。また「客観的な視点を得続けることが大切」という山村さんの意見に宮﨑さんも頷きながら、「そのために主催者側と参加者が互いに意見交換することが大事で、これからもそういう場を設けていきたい」と今後の展望について述べました。ハラスメントについては映画祭などのイベントにおいてのみならず、どんな場面においても誰もが直面する可能性はあるし、また考えなくてはならない課題でもあります。そうした面からも、とても興味深いシンポジウムだったと思います。
田中泯×山村浩二 踊りとアニメーションを語り尽くす
その後続いて始まった田中泯さんと山村浩二さんの対談。会場の市民ギャラリーの席はすぐ満席となり、スタッフが慌てて追加の席を用意するほど盛況でした。当初、写真撮影はNGといわれていたのですが、開始直前に田中泯さんと山村さんから、静止画の撮影及びSNS投稿はOKという話になったとアナウンスがあると、会場から拍手喝采の嵐。こうして私も写真付きのレポートをお届けすることができました。
話はお二人の幼少時代の話から、アニメーションやダンスにおける身体性についてなど多岐に渡りました。田中泯さんは時に立ち上がり体を使いながら、「「踊り」は人が言葉を持たない縄文時代頃から存在した。そして言葉を持たない赤ちゃんの動きも「踊り」であり、また人が誰かを見つけてわっと手をあげる、小さく手を振る、その全てが「踊り」なのだ」と語りました。私はその話を聞きながら、昨日上映された『名付けようのない踊り』で観た田中泯さんの踊りを思い出し、なんと表現したらいいのか言葉が見つからなかった田中泯さんの「踊り」の根源の一部を、そこに見たような気がしました。
また西洋のダンスは外的要素、つまりどう踊るかということだけが注目されがちで「なぜそのように踊るのか」という視点がないという田中泯さんの話から、山村さんは「アニメーションにおいても日本は外見的な特徴より内的要素をデフォルメする傾向が強い」と展開。それぞれダンスとアニメーションという2つの分野における、日本と西洋との視点の違いなど興味深い話をたくさん聞くことができました。
満員御礼!『犬王』の狂奏上映にファン熱狂
15時10分からは、ゴールデン・カープスター賞を受賞したサイエンスSARUの『犬王』が上映されました。朝から配布した400枚以上の整理券があっという間になくなる人気ぶり。遠くは熊本や東京からもファンが駆けつけるなど、会場は開演前から異様な熱気に包まれました。
上映には作品の唄・音楽を担当した琵琶奏者の後藤幸浩さんと音楽家・ギタリストの大友良英さんも駆けつけ、生演奏を披露。身体の深部まで響きわたる、琵琶とエレキギターの音色に酔いしれました。また劇中で主人公の犬王のライブシーンで、ペンライトを振ったり、手拍子やスタンディングでリズムをとる観客の姿に、本当にライブが行われているような高揚感と一体感に酔いしれたのでした。
また同じ時間にあった、環太平洋・アジアコンペティションの審査員を務めるフローランス・ミアイユさんのトークにも大勢の観客が駆けつけました。ご覧の通り、終了後はフローランスさんの周りに人だかりができて、質問ぜめにあっていたフローランスさん。一人ひとりに丁寧に答える姿が印象的でした。
そしてこの日、「ひろしまチョイス賞」の審査会もありました。
審査員には、広島の文化シーンを牽引するREADAN DEAT店主の清政光博さんと広島市現代美術館学芸員の松岡剛さん、そして恐れ多くも私もその一人として審査に加わり、51の短編作品の中から1点、選出させていただきました。受賞作品は、明日の閉会式で発表させていただくことになっています。こちらもどうぞお楽しみに!!
取材・文・写真