【イソナガアキコの公式レポート】ひろしまアニメーションシーズン2022 デイリーレポート⑤ 2022.8.21【最終回】
こんにちは。ひろしまアニメーションシーズン2022公式ライターのイソナガアキコです。2022年8月21日(日)、ひろしまアニメーションシーズンのついに最終日5日目のレポートです!ついにフィナーレを迎え、安堵の気持ちと寂しい気持ちが入り混じっています。
「平家物語」の世界に触れるトーク
昨日の特集上映で大盛況だった『犬王』を手がけたサイエンスSARUの作品『平家物語』が上映されました。山田尚子監督と脚本家の吉田玲子さん、そして美術監督の久保友孝さんの3人が登壇し、アーティスティック・ディレクターの山村浩二さんを司会に、トークをくり広げました。
実は脚本家の吉田玲子さんと久保友孝さんは広島のご出身。吉田さんはこうした表舞台に出ることは通常されないそうなのですが、今回は故郷の広島で開催される映画祭ということで、特別にご出演いただけることになったそうです。
山田監督は原作である「平家物語」の傑出した面白さに触れ、その理由の一つとして、勝者の物語でなく、負けゆく人々の物語であることなのではと指摘。山田監督の眼差しの深さにハッとさせられました。
また吉田さんと久保さんは、今回の上映作品に第3話「鹿ケ谷の陰謀」をチョイス。選んだ理由について「厳島神社の場面が多く出てくるので、広島の皆さんにぜひ作中の厳島の景色を観ていただきたい」と、その想いを述べました。
久保友孝×山村浩二 美術を語り尽くす
午後15時からは久保友孝さんと山村浩二さん二人の対談の場が設けられました。開演の前から熱心なファンが会場に集まり、立ち見が出るほどの人気ぶり。
穏やかな笑顔と謙虚な語り口が印象的な久保さんは、広島県尾道市の生口島出身。
平家物語の中でも特に広島出身者として瀬戸内海の色や山の形には特にこだわったそう。
久保さんが美術の仕事に興味を持つようになったきっかけは高校生の時。ジブリ作品を観てアニメーションに興味が湧き、いろいろ調べているうちに「背景美術」という職種があることを知ったのだといいます。それから久保さんは独学で絵を勉強。アニメーションスタジオに作品を送ったことをきっかけに上京し、スタジオに勤めることになったそうです。実は、山村さんも大学を卒業後、2年間だけスタジオで美術の仕事をしていたということで、“スタジオあるある”話でも盛り上がりました。
舞台の袖にはかぶりつきでパパを見つめる久保さんのかわいいご子息の姿も。舞台の上で話すお父さんの姿はきっと誇らしかったでしょうね。
トークの前後には、同会場に設けられていた展示「『平家物語』の彩[いろ]」に人だかりができていました。久保さんの背景美術の世界を凝縮した美術画集を絵巻物のように展示したもの。その圧巻の美しさに惹き込まれるように多くの人が時間をかけて鑑賞していました。
特別上映「ニヘイサリナ&宮嶋龍太郎&矢野ほなみ」
中ホールでは、世界を舞台に活躍する3人のアニメーション作家「ニヘイサリナ&宮嶋龍太郎&矢野ほなみ」の特集上映が行われました。3人は今回のひろしまアニメーションシーズンにおいても選考委員や審査員を務めるなど、存在感を発揮しています。上映前に揃ってステージに上がり、上映作品ついての説明や想い語りました。
中ホールでは他に「日本アニメーション協会 presents 日本のインディペンデント・アニメーションの海原に飛び込め」と題して、アラウンド80年代生まれ世代の作家の作品が多く紹介されました。その中には聞き馴染みのあるミュージックビデオの作品も多く含まれており、多くの観客が足を運んでいました。
ついにフィナーレ!閉会式
全てのプログラムが終了し、いよいよグランプリ、環太平洋・アジア賞などまだ発表されていなかった各賞の発表の瞬間がやってきました。アーティスティック・ディレクターの宮﨑しずかさんの司会進行で、長編審査員賞、HAC賞、ひろしまチョイス賞、環太平洋・アジアコンペティションの各賞、観客賞がそれぞれ発表されました。
『骨』で環太平洋・アジアコンペティションの最優秀賞を受賞したクリストバル・レオンさんとホアキン・コチナさん。
環太平洋・アジアコンペティションの審査員賞(フローランス・ミアイユ)と観客賞を受賞した和田淳さん。
環太平洋・アジアコンペティション審査員のクリス・ロビンソンさん(左)とフローランス・ミアイユさん(右)。中央は『獣』で受賞した監督に変わって賞状を受け取ったMiyu Distribution(配給会社)代表のルース・グロジャンさん。
HAC賞、ひろしまチョイス賞、ワールドコンペティション「こどもたちのために」の観客賞の3つの賞を受賞した、ステファン・オビエさんとヴァンサン・パタールさん。作品同様、届いたビデオメッセージも遊び心がいっぱい!
そしてアーティスティック・ディレクターの山村浩二さんが登場し、総括。長い期間におよぶ準備期間とこの5日間を振り返り、参加者、関係者、観客の皆さんに感謝の気持ちを述べました。そしていよいよグランプリ作品を発表!
グランプリを受賞したのは『ダーウィンの手記』でした。監督のジョルジュ・シュヴィッツゲーベルさんには、賞金50万円と広島の作家に依頼して製作したトロフィーが贈られます。
スイスにいるジョルジュ・シュヴィッツゲーベルさんから届いた、喜びのビデオメッセージも流されました。
「三井不動産リアルティ中国presentsひろしまアニメーションシーズン コンペティション」の受賞作品は、公式サイトのコンペティションページをご覧ください。
この後、同会場では受賞作品が上映され、5日間に渡って開催されたひろしまアニメーションシーズン 2022は幕を閉じました。
会場内での作品上映やトークイベントなどのほかにも、来場した監督や関係者を引き連れてエクスカーション(遠足)をするなど、様々な活動も行われていました。19日に宮﨑しずかさんが同行した「基町アパート」のエクスカーションでは、多くの参加者がそのグランドデザインや歴史に興味を持ち、楽しんだようだったと語りました。
開催前にじわじわと新型コロナ感染症が再拡大し、その対応に追われるなど通常の映画祭の業務以外のところでのご苦労も多かったと思います。しかしそれもチームワークでなんとか乗り切り、無事全てのプログラムを終えた皆さんに心からお疲れ様でしたとお伝えしたいです。
そして事務局の皆さんが2年という月日をかけて耕した土壌に蒔かれたアートと文化の種が、やがて芽を出し、根を張り、どんな風に育っていくのか。皆さんが再び2年後に戻ってくるまで、私はこの広島の地で見守っていきたいと思います。
取材・文・写真