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室町時代。かつて戦に敗れた平家の骸と遺物が今も海中に眠る壇ノ浦に、ひとりの少年が暮らしていた。名を、五百の友魚(イオノトモナ)という。ある日、友魚とその父親は、都から来た連中に乞われ、平家と共に海に没したという「剣」――皇位の証である「三種の神器」のひとつ――を探しに海へ漕ぎ出す。しかし、友魚の父はその剣に宿る呪いを浴びて命を落とし、友魚は両目の視力を失ってしまう。
無念を叫ぶ父の亡霊と母に背中を押されるように、友魚はひとり、都へ向かう。その途上、彼は琵琶法師・谷一(たにいち)に出会い、弟子となった。都にたどり着いた友魚は、谷一が属する覚一の座に迎えられ「友一」(ともいち)の名を与えられる。しかし、新しい名を受け入れて座に入るべきか悩み、再び旅支度をして一人夜の都を彷徨う。
都には、またひとり別の少年がいた。父親は猿楽能の一派、比叡座の棟梁。犬のように屋外に放り出されて育った少年は、しかし能楽師の才能はしっかりと受け継いでいた。見よう見まねで能を学び、その特異な体つきを活かして人とは違う舞を舞った。瓢箪の面をかぶり、己の異形が人々の目を引くのをあえて楽しむかのように都大路を駆けた。
そして、ふたりの少年は出会う。音を奏でる者と舞う者。ぴたりと息の合った彼らは一瞬にして意気投合する。能を舞う少年はのちに自らを「犬王」と名乗った。
そこから、新たな物語が幕を開ける――。
それぞれに芸の道を歩みながら、従来とは異なる新しいかたちで演ずる彼らのパフォーマンスは、都の民を熱狂させる。友一は友有(ともあり)と名を改め、唯一無二の自由奔放な演奏スタイルと、魂の叫びともいうべき歌声で聴衆を圧倒。犬王は型破りな演目と他の追随を許さない身体表現で人々を魅了し、アーティストとして前人未到の境地に達するたびに、呪いに縛られた彼の体は徐々に変化していった。その人気はやがて保守的な能楽師たちや琵琶法師たちの反感を買うほどに膨らみ、ついには朝廷の耳にまで入るに至る。
いよいよ、犬王と友有は、将軍・足利義満の前でその芸を披露することになる。二人にとって一世一代のステージ、それは頂点にして、彼らが探し続けた真実と出逢う瞬間でもあった――。